Disorder

3年前ほど前にこちら 発達障害のことを数回にわたって書いていました。僕自身、講師という立場にいるので一応は知っておくべきことであろうと、会の研修に参加したり本を読んだりしまして、それでそのことを知ってもらって見えない壁をどけることができたらと思ってブログにまとめて書いていたんですね。でも後になって、生半可な情報をが逆に障壁となってしまうのではないかと思いすべて削除していました。実際、こういうことになると、障害という言葉のニュアンスの問題を指摘する人もいたりなんかして、そういった言葉から生まれる相対的差別はもちろんのこと、そう名付けることによる実在化もまた懸念されるわけで。

とかなんとか思っていたのですが、最近またそういうことを考えているうちに思い直すところがあったので再び少しだけ記しておくことにしました。


今回は、3年前に書いたことの一部を再び記書きますが、上記のようなことを踏まえた上で理解してもらえればと思います。

この世界はほんとうに多様性に満ちているので、断定というものができない(愛着障害と混同されたり)のですが、2005年に発達障害者支援法の施行により、社会的に発達障害は公認され、以降多くの現場で診断が為され現在まで増加の一途を辿っているといわれています。(社会的に公認されたのだから数が増えていくのは当然といえば当然ですが)


発達障害は遺伝的要因によって発生するとされていますが、たとえば糖尿病の素因は一定でも、生活習慣が変化すれば患者数は増えたり減ったりする。同じように、発達障害の大多数は素因を強く持っていることは明らかであるが、環境状況が引き金となることも多い。

発達を支えるものには、①子どもが持つ遺伝子 ②環境 があります。これまでは科学的に①の方が②よりも大きいとされてきたのですが、たとえば、非行は②とされてきたが実は①の方が圧倒的に高い結論が出ています。つまり状況に応じた遺伝子スイッチがあり、環境との相互作用の中で発現の仕方にも差異が生じるわけです。(例えば、妊娠初期のタバコの影響で初めてスイッチがオンになる遺伝子情報があるらしい)


一般的に発達障害の定義は「発達障害とは、子どもの発達の途上において、なんらかの理由により発達の特定の領域に、社会的な適応上の問題を引き起こす可能性がある凸凹を生じたもの。」とされています。
冒頭の言葉のニュアンスの問題になりますが、分かりやすく言うと、障害とは英語で「disorder」  dis(乱れ) order(秩序)、つまり「発達の筋道の乱れ」となります。

乱暴な捉え方をすると、発達障害とは標準外ということになります。 そして、近代学校教育の目的は標準化にあります。勘のいい方はもうお気づきかと思いますが、近年において発達障害が増えているという結果が出ている背景には、ある種そういった、正常か異常か、などという二文法的な思考が必要以上に働いていたりするのかもしれません。



ではここからは、同じ年齢の2人の男の子の症例です


学習障害と診断されたA君の場合


・小4(9歳)で受診(未熟児で生まれた)


・幼児期は問題なかったが、小学校に入ってすぐに国語の苦手さが明らかに。小3で成績40点前後になり、しだいに学習に応じなくなり受診


・集中困難と自信喪失が目立つため少量の抗うつ剤を服用。すると、元気になり課題への取り組みも向上。しかし、意欲は回復したが学習は徐々に遅れ、高学年になると学習を嫌がるようになる。


・中学生になると授業から完全に取り残される。やがて不登校になりそのまま退学。

ささいなトラブルからアルバイトも1ヶ月も続かず、家でも暴れだす。少しのことでも被害的に受け取る。


・20歳過ぎになると、髪形を整えないと外へ出られない状態になり、クリニックのデイケアに通う。安定剤で暴れることはなくなる。


⇒治療の失敗例(抗うつ剤の服用)



自閉症と診断されたB君の場合


・毎日のようにかんしゃくを起こす。両親とは目が合わず母親の指示は理解しない。行動を止められることに強い抵抗がある。言葉は4歳を過ぎてまだ数語程度。オウム返しの断片的な語尾、語頭発声がある。


・その後、母子通園施設に通い始めると急速に周囲の状況に合わせた行動が可能になり、5歳前後からは急速な言葉の伸びを示す。


・小学校では通常学級に進学。中学年ごろから学習に困難を覚える。

理由は、小3~4年の時点で、カリキュラムに抽象的なイメージ操作を用いる課題が登場し、勉強に関するハードルが高くなる。国語で言えば接続詞であり、算数でいえば分数、少数など一段階飛躍する。このハードルを9歳の壁と呼ぶこともある。


・この時期にいじめも時々あり。(この時期に子どもたちは、いわゆるギャングエイジを迎え、親への秘密を持つようになり、子ども同士で仲間を作るようになるので、いじめが一挙に深刻化する傾向がある。)


・小学5年生の頃、B君は自信を失ってしまう。しかし知的には伸びており、知能指数は正常知能に近い値を示していた。


・中学校は、特殊学級へ進学。クラスのリーダーになり自信を取り戻す。学力的には通常校のいわゆる底辺校や専門学校に進学できないことはなかったが、高校進学は養護学校の高等部を選ぶ。


・おかげで徹底した職業訓練の指導により、高校2年になった頃から学校の厳しい教育が身につき、しっかり相手の目を見て応答できるようになる。


・就職にいたっては、養護学校高等部では徹底しており、企業側と教師との話し合いもある。卒業後は障害者雇用促進法により、ある大企業に勤めるようになる。初任給も高く待遇も良い。B君は残業もこなし、また自動車免許も取得。


しかし問題が全くないわけでもなく、キャッチセールスの被害にあうなどして、被害額が100万円以上になるという。人の悪意に関しては弱いところがある。



■A君とB君の違い


・元々の障害ということで言えば、自閉症のB君の方が重症である

・学習の問題においては同じ

・小学校高学年に危機的になった点も同じ

違いは1点のみで、

A君は中学校進学に際して通常教育を、B君は特殊教育を選択。


◇A君の医学的診断は学習障害であったが、適応の妨げとなったのは、学習の問題よりも自己イメージの混乱・欠如が大きな支障となった。

高校生の段階で、小学校中学年レベルの国語力と、買い物とお金の管理ができる程度の数学力、つまり社会的自立に必要な基礎学力は身につけていた。


よって学習障害そのものがA君の自立を妨げたのではない。ではその混乱や選択の誤り、一般的な誤解とはなんなのか。


誤解1.発達障害は一生治らないし、治療方法はない。


B君は就労し免許も取り、会社に通い税金も払っている。ハンディキャップはあるが、社会的な適応の障害は見当たらない。


誤解2.発達障害児も普通の教育を受ける方が幸福であり、また発達にも良い影響がある。


A君は極端な例だが、幸福とは言いがたい学校生活となった。通常教育の場は、1人の教師が30~40人の生徒に対してカリキュラムをこなす場であるから個別指導に限界がある。特殊教育ならば個別の対応が可能になる(しかし現在の日本の状況は、すべてにおいて専門的な対応を行ってはいない)。


誤解3.通常学級から特殊学級に変わることはできるが、その逆はできない。


これは全くの嘘で、特殊学級に在籍して参加可能な科目は通常学級に出かけることに関しては支障が少ないが、その逆のパターンは困難が多い。多くの親は、また学校の教師も安易に「通常学級でやってみてダメなら特殊に移せばよい」というのは、子どもの自己尊厳を著しく傷つけて、人生の早期に挫折体験を与えてしまった後の移動となってしまう。


誤解4.養護学校卒業というキャリアは、就労に際して著しく不利に働く。


養護学校の方が、就労を巡るビフォア・アフターケアがむしろ手厚く、企業間との話し合いも緻密であり、障害者職業センターが就労に際してはジョブコーチを派遣してくれるようになっている。


というように発達障害とは、個別の配慮を必要とするものであり、子どもの頃にそうであったとしてもB君のような改善が大多数の場合には実現可能です。