こころからエイリアンまで

先日、Eテレの「Rの法則」という番組を観ましてテーマは「三角関係」でした。

11月に放送されていたものの再放送だったのですがちょっと前にツイッターで映画「危険なメソッド」でフロイトユング、そしてかのニーチェゲーテも経験していたよねという内容を記していましたのでそのことで少し。

三角関係が良い、悪いということではなくて、それによって意識していなかった”こころ”が見えてくるということで。


番組の内容はこちら で把握できます。

以下は番組内の解説部分を書き起こし。



まずは、恋愛に関して100年前の人も同じ悩みを抱えていた、という触れ込みから。

三角関係については明治時代に、夏目漱石太宰治芥川龍之介などの文豪が恋バナをたくさん書いていたわけですが、その中で夏目漱石の代表作である「こころ」を読み解く。


まず、漱石はどんな人物だったのか。

吾輩は猫である」「坊ちゃん」など、初期は道徳観の強い作品が多い。

しかし、晩年は男女の三角関係を描いた作品が多くなる。「それから」という作品は、主人公が親友の奥さんを奪って逃げるという内容だったり。

そうして三角関係の集大成として「こころ」を書き上げた。


漱石は女性の心理をあまり描かず、男性の視点で物語を描いている。

だからか女性の登場人物の言動が謎めいていて、読み手は勝手に頭の中で解釈し、いてもたってもいられなくなる、というような描かれ方をしている。

例えば、友に対して親友であるにもかかわらず、自分が想いを寄せる人への信仰にも近い愛を守りたいがために、裏切りにも似た行動で出し抜く主人公の心情を描いた場面。

ここで漱石は、人の心の不可思議さを伝えているという。

漱石自身、「人の心の不可思議さをそっくりそのまま掴みたい」と書いている事実がある。人間というのは、いい人と悪い人とがいるものではなく、みんな普通の人なんだと。そんな普通の人があるとき突然いい人になったり悪い人になったりする。いざとなった時に自分が悪い人に変わってしまう恐ろしさ。本当に人の心というのはわからないもの、なのです・・・。


以上


というように、いかに道徳的であろうとしても、いざというときに自分のこころはどう蠢いているのか。それを顕在化すると、いかにこころは自分を守ろうとしているかが見えてくる。相対的な善と悪が見えてくる。


太宰治の「走れメロス」は、ほとんどの学校では真の友情の物語としての解釈が求められるところなんですが、それはスケールの小さな解釈であり、ほんとのところは漱石の「こころ」同様に人間不信の心情に共感を求めていると。

小説のモチーフとなっているのはギリシャ神話のエピソードとシラーの詩なのですがこちら で「走れメロス」の創作の発端を、そして太宰治の人生を踏まえて考えれば本当に描きたかったのは単なる友情の物語ではないことが読み取れる。

しかしこれは小説であり読者の期待を裏切るわけにはいかないから友情物語にしてしまわなければならなかったと。いかに読者を楽しませるか、するといろんな奇跡を起こして大円団に持っていかざるをえない。その渦中に期待を裏切る要因を仕込ませつつ、均衡と不均衡そしてその回復、といった物語の構成の型を採用することで期待をかきたてる仕組みとなっている。

さらにメロスを善、王を悪とだけ捉えてしまうことをしなければ物語の解釈の幅はまた違ってくる。物語の中に含まれている空白を読み取ることでメロスを疑う余地も出てくるという。ここはほとんどの学校では教えてくれないことらしい。

あと、太宰治は聖書にも影響を受けていたというからなるほどよくわかる


最近の映画でいうと、宗教色の強い「プロメテウス」のようにキリスト教を信仰している(クロスをいつも身につけている)主人公が助かるといった構図はわかりやすい。ちなみにプロメテウスとはギリシャ神話に出てくる、天上の火を人間のために盗み与えたことでゼウスの怒りをかい罰を受ける神の名であり、舞台となった惑星“LV223”は旧約聖書レビ記22章3節を表している。しかしこの映画は神ではなく創造主をさがす旅であり、その創造主はエンジニアと呼ばれていた。冒頭である惑星に有機体をばらまく創造主は後に地球人を滅ぼそうとしていることがわかる。創造主が創った人間に復讐をするということは逆説的に考えると2000年前に磔にしたキリストがエンジニアだったということがわかってくる。そしてレビ記22章3節に『あなたがたの代々の子孫のうち、だれでも、イスラエルの人々が主にささげる聖なる物に、汚れた身をもって近づく者があれば、その人はわたしの前から断たれるであろう。わたしは主である。」とあるように惑星調査団は次々と命を断たれていく。そして信仰心のある者だけが救われる、

といった内容なのだけれども、だからといってこの物語でキリスト教を流布しようとしているわけではないことも、主人公の記憶の中にあったアフリカの地で交わした父親との会話の「彼らとは信じる神が違うんだよ」というセリフでリドリー・スコット監督は観客にキリスト教が絶対の宗教ではないことを伝えている。

というように旧約聖書の引用はいろんなところで使われているよねってことで、「プロメテウス」の続編は2014年もしくは2015年に公開される予定だというから待ち遠しいなあという今日このごろ。



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